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上顎洞癌になった日から。

若くして上顎洞癌(じょうがくどうがん)という難病になってしまった妻をもつ夫の記録です。 この難病を生活の質を保ちつつどう治療し、克服するのか?この体験記を通じて同じ病気になった人への生きるヒントになれればと思います。

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  • 05/19/07:35

一時の幸せ。

6月15日。この日は抗がん剤による化学療法を始めて6日目で、いよいよ初めて『シスプラチン』を投薬する日だった。
『シスプラチン』は、今まで投薬してきた『5-FU』よりも強い副作用があり、嘔吐や脱毛は避けられないだろう。
これには個人差があり、なかには副作用があまり現れず、少し気持ち悪くなる程度で済んだり、ほとんど脱毛がないという人もいるらしい。
しかし、そんなものは一般的な話なわけもなく、あまり期待しすぎるとかえって辛くなる場合も考えられる。
逆に、普通よりも副作用が強く現れてしまう可能性も否定できないからだ。
こればかりは、実際に試してみないと誰にも予測できないことだった。

そして、そんな考えをよそに『シスプラチン』の投与は予定通り無事に済んだ。
あとはいつ、どの程度の強さで副作用が襲ってくるか待つだけであった。
もし自分のことならこんなに気を揉むこともないだろうが、変わってあげたくても出来ないことだけに落ち着かなかった。
もしかしたら、案外普通の人よりも軽くて楽かも・・・などという僅かな希望もその日の晩に見事に打ち砕かれた。

翌日見舞いに行くと、かなり疲労を感じさせる妻の顔があった。
毎日欠かさず顔を見に来ているが、この日が一番辛そうだった。
それから数日間は、本人も「生きてきた中でこんな辛い思いをしたことはない」というほど心身ともにボロボロになっていった。

6月18日。副作用で辛い中、途中経過を見るためにCT検査をした。
これは、抗がん剤治療を始める前に予定していたことで、放射線治療が可能かどうかの参考となるものだった。
結果として、残念ながらまだこの段階では腫瘍の縮小はほとんど見られなかった。
しかし考えれば当然のことだ、まだ1クール目の抗がん剤治療なうえ、『シスプラチン』投与からまだ3日しか経過していないのだから。



6月24日。この日、無事1クールの抗がん剤治療を終え、仮退院することになった。
普通の人が副作用から完全に回復するのに、およそ5~7日程らしいが、結局妻は10日間もかかった。
副作用に関しては、激しい嘔吐や倦怠感などはあったものの、脱毛だけはほとんどなかった。
それでもまだ体調は完全ではないようだったが、少しでも早く家に帰りたいとの願いからだった。

正直、仮退院とはいえ嬉しかった。
特に治療が格段の成果をもたらしたというわけでもないし、まだまだ始まったばかりだというのも理解していた。
しかし、入院している姿は見ていて辛かったし、家に帰れず寂しい気持ちでいるのが痛いほど伝わってきていたからだ。

それが今、普通に笑顔を見せながら車の助手席に座って「これから何か美味しいものでも食べに行こうか」などと楽しそうに話しているのだ。
この姿を見て、一体誰が『死に直面している病魔』に襲われている最中だと思うだろうか。

一時の幸せを噛み締めながらも、どこか頭の隅に今後の治療についての不安を消せないでいた。
それと同時に、もっと強くなりしっかりと支えなければと、改めて気持ちを引き締めた。

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