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上顎洞癌になった日から。

若くして上顎洞癌(じょうがくどうがん)という難病になってしまった妻をもつ夫の記録です。 この難病を生活の質を保ちつつどう治療し、克服するのか?この体験記を通じて同じ病気になった人への生きるヒントになれればと思います。

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  • 05/05/19:05

期待の粒子線治療。

7月10日。私は2クール目が終わると同時に、新たな治療に取り掛かれるように準備することにした。
まずは事情を担当医に話し、紹介状と今までの治療データを用意してもらうように頼んだ。その際『粒子線治療』について考えていることを伝えると、意外にも「粒子線は治療成績も悪くないので良いと思います」との言葉をもらった。

前回『粒子線治療』についての詳細を省いたが、まだ一般的には知名度がそれほどあるわけでなないようだ。
医者によっては、逆に「粒子線って何ですか?」と聞き返されることさえあるらしい。
そこで、まず『粒子線治療』について話しを進める前に、特徴について軽く触れておくことにする。

一般的に『放射線治療』に使われるのはX(エックス)線で、最も多く使われているリニアックはもちろんのこと、以前文中にもでたIMRT、トモセラピーにも使われている。
同じ電磁波の一種としてはγ(ガンマ)線があり、脳腫瘍治療で有名なガンマナイフなどで使用されている。
一方、『粒子線』とは高エネルギー粒子(原子)の流れで、その原子の数だけ種類がある。
現在『粒子線治療』として用いられている原子核は『水素』『炭素』で、水素原子核の流れを『陽子線』、炭素原子核の流れを『炭素イオン線』という。
よく『重粒子線』と呼ばれるのは『炭素イオン線』のことで、その原子核の重さからそう呼ばれる。
X線などの放射線との大きな違いは、その特性にある。
X線が身体に照射された場合、そのエネルギーは体表面からわずか1~2cmの場所でピークとなる。
そこから体内の奥深くへ行くほどエネルギー(威力)は弱くなりながら、最終的には身体を貫通する。
照射した直線上は、そこが正常部位であったとしても例外なくダメージを受けてしまうので、余計な副作用を起こしやすい。
IMRTなどはコンピューター制御などにより多少の範囲を制御できるが、特性までは消すことは出来ないので、どうしても正常細胞にも照射されてしまう。
また、身体の表面上ではなく、奥に腫瘍がある場合は、その威力が十分に行き届かず、大きな治療効果を得ることが出来ない。
しかし、『粒子線』の場合、ある一定の深さまで到達してからそのエネルギーのピーク迎えるように調節することができるのだ。(ブラッグピーク)
つまり、照射し始めは弱く、腫瘍などの重要な部分で最大威力を発揮し、その後身体を突き抜けることなくエネルギーが消失するという、実に優れた特性をもっている。
そのため、極めてピンポイントでの照射ができ、副作用も従来よりも大幅に減少させることができるのである。
また、放射線が細胞(DNA)を破壊する際の殺傷法についても大きな違いがあり、通常とは違う「再生」させないダメージを与えることができる。
『陽子線』『重粒子線』は同じ『粒子線』だが、大きな違いはその威力にある。
『陽子線』はX線などに比べても僅かな差しか違わないが、『重粒子線』はおよそ3倍の威力があるといわれている。これは原子核の重さに関係している。
いずれにせよ通常のX線やγ線を用いた放射線治療とは別格といえる特性により、場所によっては外科的手術以上の治療成績をあげているほど、優れた最新の医療技術なのである。

しかし、良いことだけではなく、デメリットも存在する。一番大きな問題はその価格で、『粒子線治療』そのものには保険が効かず、およそ300万かかる。近年、先進医療として認可されたので、そのほかの治療代には保険適用となるのがせめてもの救いだ。
もう一つは治療できる施設が限られていること。この『粒子線治療』を行うための施設には巨額の資金が必要で、建設だけでも100億以上はかかり、維持費も人件費抜きでも年間10億は必要なため、まだ世界的にも数が非常に少ないのだ。
幸い日本は世界で最も施設数があり、例えば『重粒子線治療』施設は世界にわずか3つしかないが、そのうち2つが日本にある。
『陽子線治療』の施設を合わせると2009年現在全部で7つ存在する。(2010年には更に2~3増える予定という)

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理想の治療法。

7月9日。妻は今、抗がん剤治療の2クール目に入っている。
この病院の方針からいくと、この2クールの抗がん剤治療が終わり次第検査をし、外科手術をする予定だった。
放射線治療を希望する場合は、今回の化学療法によって腫瘍の縮小が半分程度になる様な高い効果を示した時のみ、選択肢として入れていいだろうというものだった。

しかし、はっきり言ってわずか2クールの抗がん剤治療で、そこまで効果があるはずもなかった。
局所投与でもなく、まして扁平上皮に対して、よほど特異な例でもない限りそこまで急激な変化がないことなど、少し知識があるものなら最初からわかっていたはずである。

ここの病院の方針は、あくまでも確実な『根治性』を高める治療を優先することにあった。
事実、この『がんセンター』はがん治療の完治性において全国でもかなりの好成績を収めていた。

妻の担当医師は外科医であり、最初から外科手術での治療方針だけを示してきていた。
こちらから放射線治療についての提案をして、初めてその可能性について前記した条件を提示してきたのである。
もし何も言わなければ、放射線治療については触れないつもりだったと、その医師はハッキリと言いきった。
恐らくそれがこの病院の『根治性』を高めるための手段なのだと思った。
しかし、妻の担当医はまだ話のわかる人で、あくまで外科手術を勧めながらも、こちらの希望に沿うようにも考えてくれていた。

近年の放射線治療は、データだけを見れば外科手術と同様の好成績を収めてきている。
しかし、まだ未知数の部分が多く、個人差という壁にぶつかり、結局どの程度効果が得られるか、実際に放射線を当ててみないとわからないのが現実だ。あくまでも似たような症例からその可能性を探るしかない。

私が最後の最後まで、どちらを選択すべきか悩んでいたのもその部分で、確実性をとるのならば、やはり外科的手術にやや分があると感じていたからだ。

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放射線治療の可能性。

7月8日。この日は、現在治療を受けているこの『がんセンター』の放射線科医に、今後の治療方針についての意見を聞くことになっていた。
以前から放射線治療について様々なことを調べてはいたものの、実際に現職の専門家に意見を聞くのは今回が初めてであった。
調べている中で思った細かい疑問点や、実際に経験した中での意見を聞けるのを楽しみにしていた。

ここの病院では、以前書いたように『動注化学療法』『トモセラピー』による併用療法が好成績を収めており、私達にとって希望的な話が聞けると期待していた。
だが、この後の話し合いで今までにない衝撃を受けることになる。

その日の夕方、最後の診療を終えた医師のもと、話を聞きに放射線科まで出向いた。
妻と二人で部屋に入り、CTなどの資料を見ながら考えをまとめている医師の言葉を待った。
まずはこちらの考えや、方針は語らず、その医師の率直な意見を聞こうと思ったからだ。

なかなか言葉が出てこない医師だったが、険しい顔をしながらもポツリポツリと話し始めた。
それらの言葉をつなぎ合わせ、まとめるとこうだ。

●まず、初見は大変珍しく放射線治療によるイメージがつかめない。
●よって治療を施したとしても治るとは思えない。
●少なくとも自分の経験上からは難しい。
●放射線科医ではあるが、外科的手術をした方が良い。

などという、何とも否定的な言葉ばかりに正直驚きを隠せなかった。
確かに、妻の『上顎洞癌』という病気は、一般的に男性がなるもので、特に50代~がほとんどである。若い女性がなる例は珍しいといえるかも知れない。
しかし、だからと言って、癌細胞自体は扁平上皮であり、最もポピュラーな分類に属するものだ。
頭頸部は放射線が比較的利きやすく、扁平上皮癌も根治性は外科手術と大差ないパーセンテージまで上がってきているはずなのだ。
その点について聞くと、「とにかく初見が珍しいので何ともやってみないとわからない」と言うばかり。
そこで、今一番外科手術以外で可能性のある『動注化学療法』(TPF含む)『粒子線治療』について聞いてみる。

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