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上顎洞癌になった日から。

若くして上顎洞癌(じょうがくどうがん)という難病になってしまった妻をもつ夫の記録です。 この難病を生活の質を保ちつつどう治療し、克服するのか?この体験記を通じて同じ病気になった人への生きるヒントになれればと思います。

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  • 05/06/05:13

副作用と急変 (中編)

6月22日 いよいよステロイドの服用による治療が始まることになった。
服用するステロイドは『プレドニン』という内服ステロイド剤では最もポピュラーなものだ。
I 先生の治療方針により、なるべく服用期間を減らすべく、通常の投薬量よりも少ない治療方法が行われる。
通常の最初の投薬量は1日あたり20~60mgであるが、まずは20mgが投薬され、その後病状の経過とともに早い段階から服用する量を減らして行く。
こうすることで、数週間から1~2ヶ月ほどという非常に短い期間でステロイド投薬を終えてしまおうというのだ。
おそらく今回の病状に対して、必ずしもステロイド投薬が最善であると言い切れないことからそう判断されたのだろう。

妻の症状は通常の病気からなるものとは異なり、放射線による副作用と腫瘍の残存という極めて特殊なケースだ。
しかし、そういった特殊な症状だが、炎症が原因であることは確かであるため、ステロイドは効果を発揮するものと思われる。
だが、万が一効き目がなかった場合、安易にその治療をやめて次に移ることが出来ない。それがステロイド治療なのだ。
そのリスクを少しでも軽減しようと、様子を見ながら慎重に行う。

ステロイドは服用中の副作用も辛いが、減らして行く過程が一番辛いらしく、そこでもまた別の副作用が発生する。
もちろん個人差があるが、とてつもないダルさで立っていられなかったり、精神的に不安定になり鬱を併発する人も多いという。
しかも、一度ステロイド治療を終えたからといって安心できるわけでもなく、すぐに再発するケースもあり、その度に服用を再開しなければならず、結果としてまた同じ様な副作用の苦しみが繰り返されてしまう。
これでは折角病状が治まったとしても、苦しみという点では解決されたとは言えないだろう。
それらステロイド投薬によるメリット、デメリット踏まえながら、両天秤にかけつつ有意な方を選択していかなければならないのだ。

6月23日 妻は前日処方されたステロイド『プレドニン』を服用した。
その効果は比較的すぐに現れたようで、ある程度炎症が治まり、それにともない痛みも緩和していった。
妻もここまで早い段階で如実に効果が実感できるとは思っていなかったらしく、ステロイドの薬効の強さに驚いていた。
だがそれと同時に、ここまで強い薬だと副作用もやはり強く出てしまうのでは?と不安を隠せない様子だった。
妻は、私が恐れていた病的な副作用よりも、脂肪の異常沈着やムーンフェイス(顔の異常なむくみ)が非常に気になるようで、その辺りはやはり女性故の思考なのだろう。
とりあえず、妻の症状に対しても、ステロイドの服用による治療は一定の効果をもたらすことが証明され、一安心といったところだった。

6月29日 眼の炎症もステロイド服用のおかげで完全ではないが治まりつつあり、見え方や痛みもだいぶ改善されつつあった。
今日も検査の後、ステロイドを処方されたが、症状が改善されてきているということで、早くも離脱を前提とした量に抑えられていた。
ステロイドは服用を続けていたとしても、その量や期間によってほとんど副作用を出さずに済ませることができる。
妻は、症状改善を第一としながらも。ステロイドの副作用をなるべく受けないスケジュールでの服用方法で治療が行われていた。
初めの一週間は一日合計20mgで朝15mg、昼5mg、次の二週間目は一日合計15mgで、朝10mg、昼5mgといった具合に徐々に減らして行き、最後には5mgを一日おきに服用するのみになる。

7月3日 定期検査のため陽子線センターへPET-CTの検査に行く。
PETを行うのは何回目だろうか、妻も馴れたものである。
数時間かけて検査を終え、しばらくすると検査結果が出る。
そしてそれを元に主治医の診察、説明へと移る。
今回の検査結果も特に腫瘍の拡大や癌細胞の転移は見られず、良くもなく悪くもない、ほぼ現状維持といった具合だった。
ただ、PETによる腫瘍部の発光が多少治まっている様に感じられた。
これはおそらく、眼の治療のために始めたステロイド投薬の影響で、頬の炎症も少なからず抑えられたからだろう。
妻の左頬内側は治療から一年近く経過しているにも関わらず、炎症が完全に治まると言う事はなかった。
だからこそ、今回のように眼に対して余計な症状が副作用として現れたのだ。

当初主治医であるN先生の話では1年もすれば炎症は自然に治まるだろうと言うことであった。
しかし、まだまだ炎症が治まるような気配は感じられない。
私は、いかに今回の妻の病気が特殊なものか思い知らされた。
この炎症が治まらない限り、例え眼の症状が良くなったとしても、すぐにまた再発したり、他の部位で新たな病状を併発する可能性がある。
このまま自然に任せたとして、あとどのくらいで炎症が治まるのだろうか。そもそも放置したままで回復するのだろうか。
N先生は、今までの経験から炎症が治まる時期を推測したのだと思うが、おそらく妻と同じケースは経験がないだろう。
なにしろ陽子線を限界値まで照射した良性腫瘍が残存しているのだ。
その腫瘍を物理的に取り除くか、抗炎症剤投薬など、何らかの治療をしなければ症状は緩和されないように思われる。
もし自然治癒で炎症が治まるにしても、ひょっとしたら何年もかかるのではないだろうか。
しかし、今後どのような経緯を辿り、結果としてどうなるかは誰にもわからないのだ。
それは同じ様なケースがどこにも存在せず、比較することもできないため、似たようなものから想像するしかないからである。

私は、そんなに長期間に渡って副作用が続くようならば、何らかの対策をしなければならないと感じていた。
例えば物理的に取り除くにしても、当然QOLを重視したものを選ばなければならない。
旧式の副鼻腔炎手術方式や口内上顎切開の様な顔にメスを入れない方法など、調べればいくつかの選択肢は存在する。
だが、妻への適用が可能か、どの程度の回復ができるか、実際の美容面ではどうかなど、詳細については直接病院に赴かなければわからないことだ。
また、投薬による炎症回復についても新たな治療法があるかもしれない。
例えとしては少し違うが、慢性的な副鼻腔炎を治すには、その炎症を抑えるために通常よりも少ない量の抗生物質を長期間投与することで完治させたりする。
そういったまだ調べきれていない治療法が有効である可能性も捨てきれないのだ。
ただ、今はまだその時期ではないだろう。
少なくとも今は眼に関する治療を優先し、早急に完治させるべきだ。

7月13日 ステロイドの投薬を徐々に減らして三週間が経過したが、この日の検査で思ったより症状が改善されていないことが判明。
本人も投薬が始まってからと比べて、眼の痛みや見え方があまり良くないと訴えていた。
だからといって、ここでまたステロイドの投薬量を増やしてしまうと、副作用が強く現れてしまったり、薬からの離脱がより困難になってしまう。
そこで、眼に直接ステロイドを注射することで、症状の改善を目指すことになった。
眼に注射をしたことのない妻は、相当痛みがあるものと思ったらしく恐怖に怯えていた。
私が点眼麻酔で痛みはないことを伝えると、幾分気持ちが楽になった様だったが、やはりそれでも落ち着かない様子だった。
例え痛みが無かったとしても、針が直接眼に刺さる感覚や様子が見えるのだから、あまり気分の良いものではないだろう。
何とか無事に注射も終わり、ステロイドも減らす方向で処方された。
その後、麻酔が切れた頃に、針を刺した部分が多少痛むようだったが、炎症はまた改善され、その他の症状はゆっくりだが回復しつつあった。
眼注ステロイドの投薬量については、まだプレドニンを服用中ということもあって、通常の半分の量であった。
以後はプレドニンの服用から完全に離脱しつつ、その後も炎症の様子を見ながら一週間毎に投薬していく予定となった。

7月27日 今日は3回目の眼注射を行う予定であった。しかし、検査により角膜表面に今までない大量の細かい傷が付いていることが判明し、急遽取り止めとなった。
I 先生は何故急にその様な傷が増えたのか不思議な様子だったが、私には一つ心当たりがあった。
それはおそらく眼帯が原因と考えられた。
妻の左眼は強い痛みは緩和されたものの、症状的にはまだまだ回復途中であり、日によっては大きく腫れたりしていた。
また、左眼周辺は刺激物を避ける意味で化粧ができない。
そういった理由から、その部分を隠すために最近妻はよく眼帯をするようになっていた。
では何故眼帯をすると角膜に傷が大量に付くのだろうか?

それはドライアイなどの症状を考えれば簡単にわかることだ。
通常、健康な人の眼は多少の傷ができても一晩寝るだけでほぼ回復する。
それは眼細胞の特殊な性質からもそうだが、正常に涙が分泌されているからこそである。
その涙が正常に分泌されないと、眼が乾いた状態になり、眼表面が傷つきやすく、瞬きをするだけでどんどん傷が増えてしまうのである。
眼の表面は神経の塊の様なもので、ちょっとした傷でも強い痛みを伴う。
瞼は車で言うワイパーの役目だが、表面が濡れて涙が綺麗に乗っていないとスムーズに働かず、逆に傷つけてしまう。
妻も、炎症の影響から涙などの分泌物が非常に少なく、傷つきやすいうえに、回復力も遅かった。
更に瞼の裏側が炎症の影響でザラザラとした状態になっていたので、瞬きの度に角膜を傷つける。
それを眼帯で物理的に押し付けてしまえば、更に傷は深くなるものと容易に推測できた。

現に、先週の検査にはなかった傷が、その後眼帯を使用するようになって今回のような結果になっているのだから疑う余地はないだろう。
とにかくこの傷を治してからでないと眼注射はできない。
かと言って、角膜補修を促すヒアレインなどの薬では、今までの経過から効果がないことがわかっている。
そこで、I 先生の提案により角膜補修能力のきわめて高い『自己血清点眼』を作り、試してみることになった。


7月29日 I 先生より紹介された I クリニックへと来ていた。
ここでは完全予約制で血清点眼を作っていた。
血清点眼とは、自分の血液から作り出す世界で一つだけの自分専用の点眼薬である。
どんな人工涙液よりも一番涙に近く、重度のドライアイ治療に用いられたりする。
その効果は個人差はあるものの、通常の点眼薬とは比較にならないほど傷修復に優れているという。
私はその効果のほどに期待しながらも、もし効果がなかった場合、事実上それ以上の薬がないことに不安も覚えていた。
制作には長い時間がかかるだろうと思っていたが、それほどでもなかった。
一回の制作量には採取できる血液量によって個人差があり、いくら作ろうが料金は一回の値段として同じらしい。
血清点眼の主成分は血であるため冷蔵保存が必要で、長期保存の場合は冷凍することで可能だという。
幸い妻の場合は比較的多くの量が採取できたようで、たくさんの血清点眼を手にすることができた。
妻は、早速その日のうちに暇さえあれば何度も点眼した。

翌日、早くもその効果に驚かされることになった。
前日まであった眼の痛みがほぼ無くなっているというのだ。
ここまで痛みが緩和されたのは今までにない快挙ともいえる事態だった。
妻も、これで日常生活にも支障をきたすほどの痛みから開放されると思うと、喜ばずにはいられない様子だった。
この頃にはすでにステロイド(プレドニン)の服用は終わっており、治療といえば眼に直接ステロイドを注射することで炎症を抑えつつ経過観察をするのみだった。

8月17日 この日の時点で5回目となり、この日を境に投薬の間隔を更にあけることになった。
ここまでの症状は、とても調子が良いというわけではなかったが、以前に比べれた比較的落ち着いていた。
視力もかなり回復し、痛みもそれほど気にならない。
ただこの日の注射のあと、はじめて大きな眼の充血がみられた。
眼に針で穴をあけているのだから出血は当然と言えばそうだが、それは通常よく見かける眼の血管が血走ったような充血ではなく、まるで血溜りのようになっており、痛々しいものだった。
しかし、これらの症状は眼注射にはつきもので、数日もあれば血が体内に吸収され元に戻るらしい。

8月31日 5回目の眼注射から2週間あけて6回目の眼注射をした。
この日の投薬量は通常と同じ、つまり今までの2倍にあたる量のステロイドを投薬する。
次の眼注射は、更に間隔をあけて3週間後の9月22日の予定だ。
この眼注射をした翌日、今まで眼注射をした中では一番症状の改善が見られた。
眼の炎症のみならず、左頬にいつも感じていた、違和感ともいえる炎症の感覚がかなり消えていたのだ。
やはりステロイドの量を増やしたせいだろうが、おそらくその改善は一時的なものにすぎないだろう。
現に今現在の段階では、左眼の症状も昔のように回復したというわけではなく、何とか『日常生活を過ごすことはできるレベル』を維持しているだけである。
炎症は完全になくなったわけではなく、時間の経過とともに投薬の効き目が切れ、炎症もまた現れ始めるのだ。
日によって調子も違うし、痛みこそ血清点眼のお陰で緩和されているが、完全の健康的な眼に戻るには、まだまだ時間がかかるのだろう。

私は、妻の眼の症状が悪化してからの数ヶ月間、自分なりにいろいろと調べたり、眼に関する医療の問題点を考えていた。
まず一番の問題と感じたのは、眼の病気は大小様々な数あれど、その治療方法については非常に選択肢が少ないということだった。
また、病院に訪れた患者の病状を見て、どの様な病気かを探るにも、検査方法は限られたものしかなく、眼科医の経験や考えに依存する部分が非常に大きい。
視力、眼圧、色覚、角膜の傷、網膜の血管や眼底の様子、視神経の色や損傷具合、視野の欠損有無、涙等の分泌液の量、それら基本的な検査に異常が見られなければ大方問題なしと判断さてしまいがちだ。
特に、個人病院や普段特殊な例を診る機会が少ない病院では、医師の絶対的な経験が不足しており、検査では見られない異常を見つけ出すのは非常に困難なことだろう。
ただし、施設的に検査に限界があったとしても、患者の声に耳をしっかりと傾け真摯に対応し、患者の立場に立って考えられる医者であれば、その後の対処も適切であることは言うまでもない。
そして、例え病名が判明しても、その直接的な治療には決定的なものが少ないのだ。
眼に対する薬も数えるほどしかない。
先程の基本的な検査で判明する程度の症状なら、それらの少ない選択肢からでも十分治すことができるだろう。
しかし、その他の場合、ほとんどが対処療法をするしかない。
病気の根本的な原因を叩くのではなく、まずは痛みであったり、障害であったり、目先の病状を優先して改善するのだ。

妻の場合、眼に強い炎症を起こしたことからいくつかの症状が出た。
まず瞼が腫れ、瞼の裏が荒れることで瞬きの度に角膜に傷を作る。しかも、涙の分泌が少なくなっているので、ワイパー効果が失われてしまい、それが角膜の傷を作るのに拍車をかける。
また、涙の分泌減少は従来行われるはずの、異物の洗い流しや角膜の補修という機能を麻痺させ、症状をより悪化させる。
角膜の傷は強い痛みとなり、瞬きさえ出来ず、日常生活をする上で大きな障害となった。
炎症はそれらの症状だけでなく、視力低下、色覚異常、暗順応力欠損など、様々な視力障害をもたらした。

眼の強い炎症を抑える『ステロイド投薬』は主に目薬、注射、内服の3通りある。
目薬は副作用がほとんどなく、ステロイドの種類も弱いものから強いものがあり、ほとんどの眼の炎症は目薬のステロイドで改善する。
注射も局所投与のためステロイドによる副作用が比較的少ない。目薬よりも効果が高いが、連続して注射するには負担が大きく、ある程度間隔をあける必要がある。
内服はご存知通り副作用が一番強く出る。全体に効果を及ぼすので眼だけでなく、眼の炎症が他の炎症に影響を受けている場合はそこにも効果がある。投薬は計画に進めなければならず、もし症状が換算に改善されたとしても急に止める事はできず、しばらくは投薬を続ける必要があり、徐々に量を減らしていかなければならない。
また、短期間に大量のステロイドをいっきに投薬するパルス療法があり、緊急に処置が必要な症状の際に用いられる。主に点滴で行われ、必要量が2~3日続けて投薬されるため入院管理が必要である。副作用は通常の服用と比べると軽いとされているが事実確認はしていない。
妻は眼の炎症を抑えるために、パルス療法以外は全て行ってきた。
もちろん根本治療ではなく、対処療法としてだ。

炎症の最大の原因は今更言うまでもないが、陽子線照射による副作用だろう。
左頬全体、左眼、眉間付近など、照射範囲は1年経過した今も炎症を起こしているのだ。
更には腫瘍の大部分が良性であったため、今も残存し残り続けている。
良性腫瘍部分は最も照射量が多い場所で、それは他の場所の比ではない。
何しろ全てが悪性と判断されていたので、細胞を死滅させる勢いで全力照射していたのだから。
はっきり言って、今その部分がどのような状態になっているか皆目検討もつかない状況だった。
おそらく炎症の度合いも他より強く、しかも長く続くのだろうという予想しかできない。
眼の炎症を抑える治療をしてはいるものの、これら根本ともいえる炎症の原因を改善なくして完治など有り得るのだろうか。
少し前までは、時間の経過とともに炎症は治まるだろうと楽観的な考えがあったが、今はやはり何らかの治療をしなくては治らないのではないかと考えるようになってきた。
いくら飛び火を消化しても、元を消さぬ限り鼬ごっこではないか・・・そんな考えが巡る。
そうは思っていても、今は眼の治療に専念せざるを得ない。
眼が不自由というのは、本当に不便であり、日常生活もままならないのだ。
妻も、とりあえず眼を治さないと何も出来ないと不安げな言葉を洩らしている。
だが、いつか行うべきことだと思っており、そのための準備はしなければならないだろう。
できることなら、そんな準備が無駄になるように、自然に全体の炎症が治まってくれるのを願うばかりだ・・・
 

※今回(中編)として公開していますが、(後編)の記事はまだ予定していません。(後編)は眼の治療が完全に終わった時にまとめて書くつもりですので、まだ先になります。おそらく、その前に近況や経過報告の記事がUPされると思われます。
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