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上顎洞癌になった日から。

若くして上顎洞癌(じょうがくどうがん)という難病になってしまった妻をもつ夫の記録です。 この難病を生活の質を保ちつつどう治療し、克服するのか?この体験記を通じて同じ病気になった人への生きるヒントになれればと思います。

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  • 05/06/01:06

副作用と急変 (前編)

9月に入り、もうすぐ陽子線治療を終えてから1年が経過しようとしていた。
ここまで来るのに決して早かったとは言えなかった。
それは例えどんな治療をしたとしてもそうだったと思うが、癌に対する治療を完了させればそれで全て終わりというわけではないからだった。
本格的な癌の治療を終えてからも、経過観察や検査はもちろん、治療による副作用の対処が続く。
健康時にはほとんど病院には行かなかったが、今では週~月に何度も病院へ通わなければならない日々を送っている。
特に今症状が悪化しているのが眼だった。

ことの始まりは5月のGWが開けた後、5月7日の夜唐突に起こった。
妻が夜中に急に起きだし、動揺した声で「眼が見えなくなってる」と言い出した。
詳しく聞くと、完全に見えないといわけではなく、放射線を当てた左眼だけ視界が中心から大きく四角い灰色で遮られたようになりほぼ見えない状態というのだ。
以前から眼の調子が良くないとは言っていたが、その日の昼に市民病院で検査をし、『異常なし』といわれてきたばかりだった。
しかし、その日の夜にそのような今までにないような症状が現れ、妻は半ばパニック状態だった。
放射線治療の際に、副作用として眼が見えなくなる可能性もあると聞かされていたから余計に不安だったのだろう。
いよいよその日が来てしまったのかと思ったのかもしれない。

私はすぐさま詳しい症状をもとに、何が起きているのか可能な限り調べた。
緊急性のあるものだった場合は深夜だろうと病院へ行かなければならない。
だが症状を詳しく聞くと、視界が遮られているという以外は、強い痛み、頭痛や吐き気などもないようで、急激な眼圧上昇やその他緊急を要するような症状にはあてはまらないようだった。
しかし今回のような症状は初めてであり、念のため緊急病院へと行くべきかどうかと思案していると、徐々にだが視界が戻ってきたという。
妻も気持ちが落ちついたようで、朝になったら病院へ行くと言うことになった。
その時に調べた中で原因として考えられたのは、視神経の異常、もしくは網膜のトラブルだった。
しかし不可解なのは、市民病院で視神経や網膜の検査をし、異常なしと言われたその日の夜にも関わらず、そんなにも急激に症状が悪化するものだろうか?
もしかすると、やはり緊急性のある病気なのではないか?それとも病院での検査で見落としたものがあったのか?もしくは通常の検査ではわからない特別な病気なのか?
いずれにしても今の段階ではわかるはずもなく、このことを妻に話したところで不安にさせるだけだと思い、数時間後の朝一番に病院へ行くことにした。

次の日、本来ならば今まで経過観察してもらっていた市民病院へと行くべきなのだが、この日は生憎土曜日ということで休診日だった。
そこで土曜日も診察している地元での評判が良いK眼科を調べ、そこで診てもらうことにした。
K眼科は非常に混んでいて長く待たされることになったが、大変丁寧に診てもらうことができた。
今まで市民病院では見落とされていた細かい病状も発覚し、対処してもらうことで症状も緩和した。
しかし、残念ながら視界が灰色に遮られる原因を特定することはできなかった。
結局ここでの検査では限界があり、改めて市民病院で詳しい検査をすることになった。

後日、市民病院では、今まで担当していた医師ではなく、眼科の責任者である眼科医部長に診てもらうことになった。
K眼科での資料に加え、今まで行っていなかった検査の結果をもとに診断を受けるが、いずれも否定的な言葉ばかりで、結論として原因は全くわからないどころか、しまいには精神的な思い込みから見えないのでは?とまで言われてしまった。
その言葉に閉口しつつ、もうこの病院で診て貰うことはできないと思った。
妻は以前から市民病院に不信感をもっていたが、私も同じ気持ちだった。
今までの経過観察や検査も適当だったのではないかと勘ぐってしまうほどに。
現に市民病院の通院中では異常ないとされていたある症状を、K眼科では指摘され、その対処によってその症状が緩和したのだから。

いずれにしても、これ以上詳しい検査をするのは無理だと言われたからには、もっと他に設備の整った病院で診てもらうしかなかった。
問題はどこの病院にするかということだったが、調べてみても中々ピンとくるところが見つからなかった。
というのも、妻の場合は普通の症状とは違い、少し特殊であるといえるからだ。
自然に起こる病気ではなく、おそらく大きな原因は放射線治療における影響からであり、そう考えると放射線による影響も考慮できる医者が好ましいと思えた。
そういった、放射線治療による副作用を受けた患者を診たことのある医者を探すには、その道に詳しい人物に直接聞き、紹介してもらうのが一番だと考えた。
そこで私は妻の担当医であるN先生に直接電話で聞き、紹介してもらうことにした。
この頃、妻の眼の症状は一向に良くなる様子はなく、逆に悪化しているように感じていた。
視界うんぬんよりも痛みが強くなっているのが心配された。

これまでの症状や経過を以下にまとめる。
まず、一番最初に起きた大きな症状は、左眼の視界が大きな四角い灰色で遮られほとんど見えなくなるというもの。
これは寝起きの時にだけ起こる症状で、眼を覚ましている状態で突然視界が遮られるということは起こらない。
ただ単に眼を閉じた状態の後では起こらず、脳が睡眠状態に陥った後のみ症状が現れるようである。
視界を遮っている四角い灰色には血管が走ったように見え、その部分は薄っすらと明るいという。
視界は時間の経過とともに回復し、通常の状態に戻る。
眼は次第に痛みが増し、ピーク時には眼が開けていられないほどで、何も出来ずただ痛みに耐え横になって安静にするしかない日もあった。
瞼は大きく腫れ、強い炎症が起きている。
白目がむくんだ状態で、ブヨブヨとしたものがはみ出している。(結膜浮腫)
急に暗い場所へ行くと左眼だけかなり見え難くなる。
色も微妙に感知しづらいようで、左眼だけで見ると赤みが抜け少し灰色がかったように見える。
光がかなりまぶしく感じる。
これまでの病院側の対処は、角膜補修「ヒアレイン」、抗菌点眼薬「クラビット」、ステロイド点眼薬「フルメトロン」の処方のみ。
どの様な症状を訴えても、この三種類の目薬しか出せません、と市民病院では言われた。



6月1日 N先生より紹介されたC病院へと来ていた。
そこでは最初から経験豊富な眼科医部長の I 先生に診てもらうことになっていた。
視力検査、眼圧測定、視野検査、眼底写真、色盲検査など一通りの検査を済ませ、診察に入る。
I 先生は今までの検査結果や紹介状などの資料を見ながらいくつか質問をした後、直接角膜や網膜、視神経などの様子を診察した。
しかし、やはりここでも何らかの異常があるという検査結果は出ず、何が原因で今のような状態になっているのか不明のままだった。

I 先生がおっしゃるには、いずれの検査からも異常が見られないということは、今すぐ急激に深刻な事態になるようなことは考え難く、まずは痛みなどを緩和する対処療法をするべきだろうとのことだった。
また、望むのであればその他の今までやっていないような精密検査も行ってもよいということだった。
これは、先生自身がおそらくそこまでの精密検査は必要ないだろうと考えていたとしても、検査をすることで患者が納得し、不安を解消できるのであればすべきだろうという考え方なのだろうと思えた。
私はそういった患者の立場になって考え、出来うる限りの望みを叶えてくれようとする医者こそ名医と思っている。
また、そういった医者が妻に一番合っているのだ。

市民病院では患者が訴える症状や、推測は一切受け入れず、あくまで自身の判断のみで決めつけていたようだった。
病状は診察をすれば患者の言葉を聞かずともわかる。
ヘタに聞いたほうが混乱を招き正確な判断ができなくなる。
その様に思っているのだろうか。
確かに患者は医療に関して無知であり、素人だ。
だが、当事者は患者であり、その病状回復を一番に望んでいるのだ。
例え的外れなこと言っていたとしても、不安に思っていることを聞いてやり、それを解消していく手立てを示すことが大事だと思う。
それが結果として回復への大きな一歩となるからだ。

妻が市民病院に対して不満と憤りを覚えていたのは、まさにその点においてだった。
放射線治療が終了してからずっと通院し続け、毎回検査を行い経過観察していたにも関わらず、今回の症状については全く気づかず、まるで今までの数ヶ月が無意味に思えたからだろう。
もし仮に突発的に病状が急変し、その事故的ともいえる急激な悪化によって招かれた事態ならば納得もできたのかもしれない。
しかし、患者である妻が再三痛みやその他の細かな症状を訴えても、まるで意に介さないかのように決められた検査のみ行い、その結果に異常が見られないから正常だろうという判断を繰り返してきたのだ。
もう少し患者の声に耳を傾け、何らかの対策を行っていたならばここまで症状が悪化しなかったのではないか?
そう思ってしまっても仕方のないことかもしれない。

I 先生は妻が話す症状によく耳を傾けてくれ、それではと、ここの設備ではできない特殊な検査をすべく、別病院に行くように指示してくれた。
そこには I 先生も週に1度出向しているので、診てもらうのは当然 I 先生となる。
後日、その病院に『色視力』というものを測るために来院する。
妻の眼の症状の1つに、「色の見え方がおかしく感じる」というものがあったが、通常の色盲検査ではそれほど強い異常は見られなかった。
そこで、より精密にわかる方法で検査することになったのだ。
検査には思ったよりも時間がかかり、実に数時間を要したが、無事に終えることができた。
検査結果は後日出ると言う事で、改めて来院することにした。

6月22日 再び来院し、前回の検査による結果を聞くと同時に、それをもとに治療方針を決める。
検査結果は I 先生の予想以上に悪いとのことだった。
原因はやはり、強い炎症によるもので、とにかくこの炎症を抑えることが必要であった。
I 先生からはずでに炎症を抑えるための薬「リンデロン」を処方されていたが、さらに強い抗炎症剤が必要だと判断されたのだ。
「リンデロン」は点眼薬の中ではステロイドを主体とした一番強い抗炎症薬であり、これ以上の炎症を抑えるためには点滴か服用しかない。
そうなるとステロイドの体内投薬を余儀なくされるのだが、副作用の問題が大きくのしかかってくる。
ご存知の方も多いだろうが、ステロイドの薬効は絶大なものがあるが、その副作用も見逃せないほど強く、投薬には慎重にならざるを得ない。


※ステロイドとは副腎皮質ホルモンとも呼ばれており、肝臓の上部に位置する副腎という臓器の外側(皮質)で作られている。
このホルモンの「糖質コルチコイド」という成分を化学合成したものを、ステロイド剤として使用する。
主に炎症を鎮めたり免疫を抑制する働きがあるが、その効果が大きい反面副作用も強く、様々な症状が出てしまう。
代表的な副作用として、副腎機能の低下、高脂血症、高血圧、骨粗しょう症、筋力低下、白内障、緑内障、胃潰瘍、糖尿病、中心性肥満、感染症、心筋梗塞、精神変調、etc・・・
副作用は数え上げたらキリがないくらい多く存在するが、必ずしもなるわけではなく、個人差が多い。
だが、一番問題となる点は、一度服用を始めると容易には止めることが出来ないということだ。
普通の薬のように病状が落ち着いたからといって服用をやめることが出来ず、しばらく続けなければならない。
結果として、副作用だけが残り、苦しい時期が続いてしまう。
それは、ステロイド剤を長期間服用していると、本来体内で作られていたステロイド(コルチコイド)の生産機能が弱まるため、その状態で急に服用を止めてしまうと量が不足し、非常に危険な状態になってしまうからだ。
場合によっては数ヶ月から数年の長い期間をかけて、徐々にステロイドの服用量を減らしていかなければならない程、慎重に行わなければならない。
それほどのデメリットや制約があるにも関わらず投薬に用いられるのは、やはりその効果の大きさからなのだが、それでも投薬しないことに越したことはなく、まさに最終の手段ともいうべき処置といえるだろう。


I 先生は最後まで迷っていたようで、なるべくならステロイドを服用しない方法で対処できればと考えていたようだった。
しかし、一向に痛みなどの病状に回復の兆しが見られず、投薬できる薬剤に関しても、もうすでに手の打ちようがない状態でもあった。
そこで、ステロイドを試すにあたり、服用の離脱がしすいようにと、通常の量よりも少ない投薬方法で様子を見ながら慎重に行うことになった。

確かにステロイドの投薬に関しては、その副作用や中毒性を考えると躊躇する部分がある。
しかし、今の状況では日常生活に支障が出るほどの痛みや違和感があり、まずはそれらを解消しなければ先に進むことが出来ない。

私は、妻が不安に思っているのをなだめながら、これによって症状の緩和ができることを強く願うしかなかった。


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その後いかがですか

こんばんは、初めまして。のぎくと申します。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。
奥様のご病状が心配ですね... 我が家にも慢性副鼻腔炎の夫と急性副鼻腔炎と滲出性中耳炎をおこす長男(14歳)がおります。 本日メールをいたしましたのは、長男が色覚異常・視野狭窄(いずれも先天性)があり、もしかしたらご参考になるかも知れないと思ったからです。
眼底検査で視神経異常が認められ、この近くに増殖タイプの細胞があるかも知れないというのでMRI(頭部)をしました。先天性のものということで、1年に1度の経過観察ということになってます。
色覚は色覚専門外来をお教えできます。精査目的ならば、こういう手段もあるかなというところです。
まだ暑い日が続きますので、お体を大切になさってください。 のぎく

ご報告ありがとうございます。

のぎく様、はじめまして。
わざわざコメントして頂きありがとうございます。
妻は、通常行えるいくつもの検査(精密眼底検査、視神経検査、複数種類の視野検査など)を行いましたが、いずれも異常はありませんでした。もちろん細胞による異常も認められませんでした。
色覚異常を含む様々な症状の原因は強い炎症であると考えられ、その炎症の原因は確定的ではないものの、やはり陽子線治療による副作用だと考えられます。
ですから症状を抑えるためには炎症を抑える対処療法となり、今現在はそのおかげで回復してきています。
のぎく様も大変かとは思いますが、お身体に気をつけて過ごされますように願っています。

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