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上顎洞癌になった日から。

若くして上顎洞癌(じょうがくどうがん)という難病になってしまった妻をもつ夫の記録です。 この難病を生活の質を保ちつつどう治療し、克服するのか?この体験記を通じて同じ病気になった人への生きるヒントになれればと思います。

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  • 05/19/03:06

不安要素。

8月5日。陽子線治療を始めてから数日が経過していた。
今のところ副作用といえば皮膚表面が、ほんのり赤くなってきた程度だった。
今後照射回数を増やしていけば、日焼けしすぎた時のようになり、若干腫れも出てくる。
X線での放射線治療ではポピュラーな副作用だが、陽子線も例外ではなく避けては通れない症状だ。
ピークを調整できるとはいえ、必ず皮膚表面は通過しなくてはならないからだ。

顔の赤みは個人差によるが、およそ数ヶ月から一年ほどで完全に消える。
しかし、それにしても妻の場合は少しその副作用が出るのが早いようだった。
どうやら陽子線治療の際に化粧をしたまま行ったのがいけなかったらしい。
通常は化粧をしたままでも問題ないとの話しだったのだが、その化粧に紫外線カットの成分が入っていると、何らかの反応を起こし、皮膚表面に色素が沈着しやすいとのことだった。
恐らくこの様な例はどこを探しても情報として出てこないだろう。
『陽子線治療』に関しては、まだまだ未知な部分が多いと改めて実感した。

8月6日。通院による陽子線単体の治療から、動注化学療法も含めた併用療法へと移行するため入院することになった。
『陽子線治療センター』は病床数が少なく、今現在は満床状態のため、とりあえず隣接した病院の入院病棟へと入ることになった。
この病棟は全て個室となっており、風呂、洗面所、トイレ、電話、テレビ(ビデオやゲーム付)、インターネットなどの充実した設備が整い、広さも十分にあった。
しかも、ベッドの差額代金も都市部の病院と比べると、半額かそれ以下というリーズナブルさで、環境的には申し分ない。
ここで数日間過ごしながら、陽子線治療を受ける際はここから通院する。そして、あちらの病室が空き次第移る予定だ。

8月8日。この日いよいよ『動注療法』のためのカテーテル挿入手術が行われる。
この手術自体は治療ではないが、『動注療法』には絶対にはずせない処置であり、必要不可欠なものだ。

前日にその準備として、髪をカットした。
妻の場合、左上顎洞に対して動注療法をするので、左側面の耳周辺を2ブロックにして刈り上げた。
上の長い髪を下ろせば、うまく隠れるので見た目は変わらないだろう。
髪の短い男性などは、片方だけ短いとバランスがおかしくなるので、大体の人が坊主にするらしい。

動注療法のカテーテル手術は、基本的に危険な手術ではないが、いくつか不安要素もある。
まず、カテーテルが挿入できるかどうかという点や、もしうまくカテーテルが挿入できたとしても、うまく薬剤が腫瘍まで届くかどうか等である。
血管にも個人差があり、カテーテル挿入に耐えられないものや、特異体質などで一般的な血管組織ではない、複雑化した血管であった場合は、目的とする血管にカテーテルを挿入すること自体ができない場合もあるらしい。
もしうまくカテーテルが挿入できたとしても、その血管が腫瘍へと到達していない場合も意味がない。
だが、いずれの場合も余程の偶然が重ならない限り大丈夫と言えるだろう。

私が一番懸念していたのは、カテーテル挿入時に、血液の塊などが脳血管に流れて詰まり、脳梗塞などを引き起こすケースだった。
これは数パーセントとういう低確率ながら、実際に報告例がある不安要素であった。
数パーセントとはいえ、しょせん確率論である。例え100万分の1でも当たる時は当たってしまうものだ。これほど信用性のないものはない。

だがこれに関しては少し安心できる要素があった。
それはこの手術をするのが、あのF先生とN先生だったことだ。
動注療法のパイオニア的存在といわれる先生は、症例数世界一ともいわれる数をこなしているのにも関わらず、手術の成功率は100%を誇っていた。
どこを探したとしても、これ以上の安心を得られる先生方は他にいないだろう。

しばらくして、流石というべきか、当然のように手術は無事に成功した。



その後、造影剤をカテーテルから流し込み、しっかりと腫瘍へと送られるかMRIで確認する。
MRIで撮られた腫瘍は、造影剤を吸収して見事なまでにその形状を細部まで映し出していた。
また、実際にどのような状態か直接見させてもらった。
妻に口を開けてもらい、奥歯付近の腫瘍が目視できる状態で、先生に青く着色された溶剤を注入してもらうと、流し込んだ瞬間に腫瘍部が真っ青に染まった。
そしてすぐに腫瘍に吸収され、もとの色へと戻る。
腫瘍全部が隙間なく色付いたのを見て、それだけ細部にわたって高濃度な抗がん剤が行き届くなら、その効果は絶大なものだろうと感じだ。
動注療法が、今回の治療におけるおよそ7割を占めるというのも頷ける話しだった。

カテーテルは、動注療法が完全に終わるまで、挿入した状態を維持しなければならなかった。
そのため、少々邪魔ではあるが、ひっかけたりしないように注意しながら生活しなければならない。
また、カテーテル内が詰まってしまわないように、常に水分を流し込み続ける必要があった。
ゴムの伸縮作用を利用し、ゴム風船の様なものが徐々に小さくなることで、水分が少づつカテーテル内を流れて詰まりを防止する。
そのための小さなケースも併せて持ち歩かなければならない。
数日は違和感があるかもしれないが、直に慣れるだろう。

動注療法の抗がん剤投入は2日後だ。
今回は、全身投与と違い、中和剤を同時に点滴することで副作用がほとんどなく治療することができる。
しかし、やはりこれも個人差があるはずだ。
実際にやってみないとわからない部分がある。
私は、何とか少しでも副作用がないようにと祈るほかなかった。
この治療はとても重要であり、根治を目指すためには最後まで続けていかなければならないからだ。

ここまでは順調に来ていると言えるだろう。
どうかこのまま何事もなく上手く言って欲しいと、そればかりを思っていた。

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