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上顎洞癌になった日から。

若くして上顎洞癌(じょうがくどうがん)という難病になってしまった妻をもつ夫の記録です。 この難病を生活の質を保ちつつどう治療し、克服するのか?この体験記を通じて同じ病気になった人への生きるヒントになれればと思います。

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  • 05/19/01:57

唯一の正解。

7月30日。今日いよいよ『陽子線治療』を始める。
妻は前日より現地入りし、治療への準備は万全だった。
私は残念ながら付き添うことができないため、妻の両親が一緒に行ってくれていた。

実際の入院は少し先なのだが、一刻も早く治療を始めたいというこちらの希望を聞いてもらい、陽子線治療を先行して行うことになった。
入院するまでの間は、ホテルに連泊したりするのが一般的らしいが、義父母が病院近くにマンスリーアパートを借りてくれたので、しばらくはそこからの通院となる。
病院付近にそういった拠点的なものがあれば、私が妻の見舞いなどで訪れた際も、そこに泊まれるだろうとの配慮があってのことだった。
妻が病気になる前からそうなのだが、いつも義父母には良くしてもらい感謝してもしきれないほどだ。

早速『陽子線治療センター』へと行き治療を始める。
これからどの様な治療をしていくか、再度簡単に説明を受けたあと、いよいよ陽子線治療が始まる。
私が直接治療を受けたわけではないので、実際にどんな感じかはわからないが、妻の感想では「陽子線がどの部分に、何回照射されているのがわかる」らしく、それ以降の治療の度に
「今日はどこに何回照射した」と報告してくれていた。
そして照射後に「陽子線の匂いが鼻に残る」らしく、それがふとした時に匂うという。

治療の所要時間としては、照射前の固定具装着や照射位置の確認などで少し時間がかかるだけで、照射自体はあっという間に終わる。
全てを含めても20分かからないくらいだろうか。
当然ながら1日に1回の照射しかできないので、その後は何もすることがない。
基本的に通院だけで治療するが、条件的に入院をしなければいけない人もいる。
そういった人は、治療が終わったあと病室に戻ってもやることもなく暇で仕方ないらしい。
苦痛もなく、副作用もほとんどない、短時間な治療法だからそう思うのかもしれないが、考えてみれば贅沢でもあり嬉しい悩みとも言える。

妻は自宅が遠方であり、通院できないということと、『動注化学療法』の併用治療をするために、入院管理が必要だった。
まだ化学療法を行う前なので、とりあえず数日間だけは通院ということになる。
照射範囲は当初の予定よりも大きくとることになった。
左眼全体を含む、ほぼ顔半分を照射するのだ。
今までの検査によると、目と目の間や、目の奥にも腫瘍(癌細胞)がある可能性を否定できなかった。
そこで念のために予想される範囲全てに陽子線を照射することになったのだ。

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治療に必要なこと。

7月21日。妻の抗がん剤治療2クール目が終了し、『がんセンター』を無事に退院することができた。
本当はまだ少し副作用の影響で体調がよくない様だったが、今日退院しなければ次の予定に間に合わないため、ギリギリでの退院となった。
『上顎洞癌』という『がん』になってから、本格的な治療を始めて一ヵ月半ほど経過していたが、実際に行われた治療は全体からすればまだほんの入り口に過ぎなかった。
最も重要な局所に対しての治療がまだ手付かずに近い状態であったため、一刻も早く直接的な治療をしてもらいたいと思っていた。

7月22日。早朝から電車を乗り継ぎ、妻とともに4時間ほどかけて『陽子線センター』に到着した。
前回のセカンドオピニオンによって、ここでの治療が決定したのだが、今回は患者である妻を直接連れてきて、診察や検査を2日間をかけて行うのである。
『陽子線治療』を行うために必要なことや、入院するために必要なことなど、いくつかの検査が待ち受けていた。
また、検査以外にもやらなければならない事があり、それは『陽子線治療』を行う人には避けては通れない重要な作業だった。

まずは『採血』『レントゲン』『心電図』を順番に済ませていく。この辺りの検査はもう手馴れたもので、特に問題なく終わる。
続いて『陽子線治療』に欠かせない『固定具作成』を行う。
より正確に病巣に照射するためには、照射中に僅かでも動くことは許されない。
しかし、そう言われて全く動かないでいるのも難しいので、専用の固定具を使用することで強制的に動かないようにするのだ。
頭頸部の癌は頭を固定するので、顔面の型を作ることになる。
『シェル』と呼ばれる薄いシート状のプラスチックな様なものがあり、これを暖めると柔らかくなるので、その状態で固定したい部位にその身体の形状に沿って型を取る。
冷えると固まり、ホールド力の強いかなりフィットした、世界で唯一つともいえる『自分専用固定具』が出来上がるのだ。

固定具が無事に作成できたら、実際にそれを使用して『MRI』や『CT』によって病巣位置を確認しながら、陽子線照射のために必要なデータを取る。
それらのデータをもとに、今後の治療計画が立てられるのである。

固定具は動かないように少々強めにホールドするため、その圧迫感により照射途中に気分が悪くなる人もいるらしい。
妻は、多少息苦しさは感じるものの、その他は特に問題はない様子だった。

診察も行ったのだが、今回は患者本人である妻もいるので先生に直接診てもらう事ができた。
今後担当医として診てもらうのはN先生で、セカンドオピニオンの際にもF先生と共に話しを聞いて頂いた先生だ。
N先生はF先生の一番弟子ともいう方で、F先生にその腕を見込まれてわざわざ地元からこの施設まで勧誘されてきたらしい。
まだ若いながら、この施設の副センター長を任されるほどの非常に優秀な先生だった。

どんな人でも多少なりとも直接話してみると、その人柄がわかるものである。
F先生もそうだったが、N先生もとても気さくな方で、何でも気軽に聞くことができ、話しやすく好感が持てた。
医師に求められるのは腕の良さはもちろん、この人柄や性格ともいえる部分も非常に大事だと思う。
これから長い付き合いになるであろう先生に、遠慮したり苦手意識を持ってしまうようでは治療にも影響しかねない。
その点も含め『名医』と呼べるかどうか決まるのだと思う。

以前いた『がんセンター』は、その忙しさからか先生や看護士の方々は常に余裕がなさそうで、どこか話し難い部分があった。
先生に至っては、会うことすらままならない。
しかし、それらは各個人の問題ではないことはわかっていた。
慢性的な医師や看護士の不足、それに伴う激務。その激務に耐えられないものが辞めることで、さらに人材不足になってしまうという悪循環。
この日本の医療体制自体が変わらない限り、今後も解決しないだろう。
人の命を預かる医師や看護士の方々が、忙殺されながらも必死に自分の仕事をこなしているのは尊敬に値する。

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大きな一歩。

7月16日。この日は間違いなく『運命の日』と呼べるだろう。
私は、数日前「セカンドオピニオン」として予約していたある施設まで来ていた。
ここは『粒子線治療』の一つである『陽子線』を使用した治療を行っている場所で、まだ開設して1年も経過していない新しい施設だった。
粒子線治療施設の中でも自宅から一番遠方にあり、新幹線を乗り継いでも4時間ほど掛かる。
しかし、いくら遠くても来るだけの価値は絶対にあると確信していた。

まず最初にその施設における設備の充実ぶりに驚かされた。
放射線治療全般に言えることだが、余計な副作用を起こさないためには、病巣に寸分の狂いもなく照射する必要がある。
そのためにレントゲンやCTなどを使用したりするが、ここでは更に精度の高い『PET-CT』を陽子線治療専用として使用する。
『陽子線治療』『PET-CT』の2つの最先端医療機器を併せて使用しているのは、世界でもここだけだ。

そして、やはり期待すべきは医師の方々である。
特にこの『陽子線治療センター』のセンター長であるF先生は、現在妻が入院している『がんセンター』で20年以上放射線治療と化学療法との併用治療を行い、外科的手術をしない治療法で数多くの患者を救ってきた人物だ。
放射線科部長と副医院長を兼任してきたが、その地位を捨てて「切らずに治す医療」を極めるべく『陽子線治療』に全てを賭け、ここのセンター長を引き受けたという。
私が期待している『超選択的動注化学療法』は、今では広く行われているが、実は未だにその治療法について細かい定義が成されていない。
つまり、「この症状には、どの薬をどれくらいの量、どの程度の期間をかけて投薬すれば効果的」などの決まりごとがないのだ。
それはまさに、各医師の技量や経験という、不明確なものに頼らざるをえない事を意味していた。
そうなると、やはり一番治療経験があり、かつ根治させてきた実績が多い医師が望ましいということになる。
その経験や実績が世界一ともいわれるF先生ならば、まさに申し分ない。
そもそも『粒子線治療』『超選択的動注化学療法』を併用治療してくれる施設すらないに等しいのである。
それらを考えれば、この施設がどれだけ恵まれているか言うまでもない。

ただ一つだけ不安があった。
これだけ期待している分、もしF先生からも「放射線治療ではなく外科的手術の方が良い」と言われてしまったら・・・
この先生以上の人はいないだろうと考えているだけに、他の放射線施設でセカンドオピニオンを受ける気には到底なれないだろうと感じていた。
しかし、まだ起きもしないことで不安になったところで何の意味もない。
まずは直接会って、こちらの今までの経緯や現状、そして今後どの様な治療を望んでいるか率直に伝えることにした。

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