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治療に必要なこと。
7月21日。妻の抗がん剤治療2クール目が終了し、『がんセンター』を無事に退院することができた。
本当はまだ少し副作用の影響で体調がよくない様だったが、今日退院しなければ次の予定に間に合わないため、ギリギリでの退院となった。
『上顎洞癌』という『がん』になってから、本格的な治療を始めて一ヵ月半ほど経過していたが、実際に行われた治療は全体からすればまだほんの入り口に過ぎなかった。
最も重要な局所に対しての治療がまだ手付かずに近い状態であったため、一刻も早く直接的な治療をしてもらいたいと思っていた。
7月22日。早朝から電車を乗り継ぎ、妻とともに4時間ほどかけて『陽子線センター』に到着した。
前回のセカンドオピニオンによって、ここでの治療が決定したのだが、今回は患者である妻を直接連れてきて、診察や検査を2日間をかけて行うのである。
『陽子線治療』を行うために必要なことや、入院するために必要なことなど、いくつかの検査が待ち受けていた。
また、検査以外にもやらなければならない事があり、それは『陽子線治療』を行う人には避けては通れない重要な作業だった。
まずは『採血』『レントゲン』『心電図』を順番に済ませていく。この辺りの検査はもう手馴れたもので、特に問題なく終わる。
続いて『陽子線治療』に欠かせない『固定具作成』を行う。
より正確に病巣に照射するためには、照射中に僅かでも動くことは許されない。
しかし、そう言われて全く動かないでいるのも難しいので、専用の固定具を使用することで強制的に動かないようにするのだ。
頭頸部の癌は頭を固定するので、顔面の型を作ることになる。
『シェル』と呼ばれる薄いシート状のプラスチックな様なものがあり、これを暖めると柔らかくなるので、その状態で固定したい部位にその身体の形状に沿って型を取る。
冷えると固まり、ホールド力の強いかなりフィットした、世界で唯一つともいえる『自分専用固定具』が出来上がるのだ。
固定具が無事に作成できたら、実際にそれを使用して『MRI』や『CT』によって病巣位置を確認しながら、陽子線照射のために必要なデータを取る。
それらのデータをもとに、今後の治療計画が立てられるのである。
固定具は動かないように少々強めにホールドするため、その圧迫感により照射途中に気分が悪くなる人もいるらしい。
妻は、多少息苦しさは感じるものの、その他は特に問題はない様子だった。
診察も行ったのだが、今回は患者本人である妻もいるので先生に直接診てもらう事ができた。
今後担当医として診てもらうのはN先生で、セカンドオピニオンの際にもF先生と共に話しを聞いて頂いた先生だ。
N先生はF先生の一番弟子ともいう方で、F先生にその腕を見込まれてわざわざ地元からこの施設まで勧誘されてきたらしい。
まだ若いながら、この施設の副センター長を任されるほどの非常に優秀な先生だった。
どんな人でも多少なりとも直接話してみると、その人柄がわかるものである。
F先生もそうだったが、N先生もとても気さくな方で、何でも気軽に聞くことができ、話しやすく好感が持てた。
医師に求められるのは腕の良さはもちろん、この人柄や性格ともいえる部分も非常に大事だと思う。
これから長い付き合いになるであろう先生に、遠慮したり苦手意識を持ってしまうようでは治療にも影響しかねない。
その点も含め『名医』と呼べるかどうか決まるのだと思う。
以前いた『がんセンター』は、その忙しさからか先生や看護士の方々は常に余裕がなさそうで、どこか話し難い部分があった。
先生に至っては、会うことすらままならない。
しかし、それらは各個人の問題ではないことはわかっていた。
慢性的な医師や看護士の不足、それに伴う激務。その激務に耐えられないものが辞めることで、さらに人材不足になってしまうという悪循環。
この日本の医療体制自体が変わらない限り、今後も解決しないだろう。
人の命を預かる医師や看護士の方々が、忙殺されながらも必死に自分の仕事をこなしているのは尊敬に値する。
7月23日。この日は『PET-CT』があるため検査の数時間前から何も食べることが出来ない。飲み物に関しても水とお茶以外はNGであった。
検査はお昼過ぎからなので、早朝6:30には朝食を済ます。
検査にはそれなりに時間がかかるので、待合室でしばらく待つことに。
その後、画像確認ができ次第すぐに診察を受ける。
『PET-CT』は、名称の通り『PET』と『CT』を併せ持った装置で、それぞれの特性を活かすことで、より解析能力を向上させた最新機器である。(『PET』や『CT』についての解説は、すでに知っていると思うので省略)
私もその画像を初めて見たが、確かに素人目に見ても従来のPET画像よりもかなりわかりやすい。
CTのような断面画像でPETによる細胞分布が確認できるので、より立体的に正確な位置が把握できた。
やはり上顎洞の腫瘍以外にも、リンパ節に僅かな反応がみられた。
しかし、以前確認したときよりも縮小しており、前回行った全身投与による抗がん剤治療に多少なりとも効果があったことを窺わせた。
リンパ節に関しては『動注化学療法』では薬剤が届かないので効果ない。
そこで『陽子線』による治療で根治を目指す。この程度の大きさなら問題ないとのことだった。
一番大きな腫瘍である上顎洞部については『陽子線治療』と『動注化学療法』による併用治療を行う。
私は、その治療効果の割合があまりにも意外だったことに驚いた。
『陽子線』が3割なのに対し、『動注化学療法』は7割に相当するというのだ。
直接的なダメージともいうべき『陽子線』の照射がわずか3割しかないということは、それだけ『動注化学療法』が絶大な効果をもたらすということだろう。
改めてこの治療の重要さが確認できた。
検査を終え、今後の治療計画ができあがるのに数日の時間を要する。
実際に陽子線の照射を受けるのは治療計画ができあがった後になるため、それまでは自宅で待機することになった。
今までの待つことに対して感じたもどかしさとは違い、いよいよ直接的な根治を目指した治療が始まるということに、良い意味での待ち遠しさを感じながら病院を後にした。
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