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大きな一歩。
7月16日。この日は間違いなく『運命の日』と呼べるだろう。
私は、数日前「セカンドオピニオン」として予約していたある施設まで来ていた。
ここは『粒子線治療』の一つである『陽子線』を使用した治療を行っている場所で、まだ開設して1年も経過していない新しい施設だった。
粒子線治療施設の中でも自宅から一番遠方にあり、新幹線を乗り継いでも4時間ほど掛かる。
しかし、いくら遠くても来るだけの価値は絶対にあると確信していた。
まず最初にその施設における設備の充実ぶりに驚かされた。
放射線治療全般に言えることだが、余計な副作用を起こさないためには、病巣に寸分の狂いもなく照射する必要がある。
そのためにレントゲンやCTなどを使用したりするが、ここでは更に精度の高い『PET-CT』を陽子線治療専用として使用する。
『陽子線治療』と『PET-CT』の2つの最先端医療機器を併せて使用しているのは、世界でもここだけだ。
そして、やはり期待すべきは医師の方々である。
特にこの『陽子線治療センター』のセンター長であるF先生は、現在妻が入院している『がんセンター』で20年以上放射線治療と化学療法との併用治療を行い、外科的手術をしない治療法で数多くの患者を救ってきた人物だ。
放射線科部長と副医院長を兼任してきたが、その地位を捨てて「切らずに治す医療」を極めるべく『陽子線治療』に全てを賭け、ここのセンター長を引き受けたという。
私が期待している『超選択的動注化学療法』は、今では広く行われているが、実は未だにその治療法について細かい定義が成されていない。
つまり、「この症状には、どの薬をどれくらいの量、どの程度の期間をかけて投薬すれば効果的」などの決まりごとがないのだ。
それはまさに、各医師の技量や経験という、不明確なものに頼らざるをえない事を意味していた。
そうなると、やはり一番治療経験があり、かつ根治させてきた実績が多い医師が望ましいということになる。
その経験や実績が世界一ともいわれるF先生ならば、まさに申し分ない。
そもそも『粒子線治療』と『超選択的動注化学療法』を併用治療してくれる施設すらないに等しいのである。
それらを考えれば、この施設がどれだけ恵まれているか言うまでもない。
ただ一つだけ不安があった。
これだけ期待している分、もしF先生からも「放射線治療ではなく外科的手術の方が良い」と言われてしまったら・・・
この先生以上の人はいないだろうと考えているだけに、他の放射線施設でセカンドオピニオンを受ける気には到底なれないだろうと感じていた。
しかし、まだ起きもしないことで不安になったところで何の意味もない。
まずは直接会って、こちらの今までの経緯や現状、そして今後どの様な治療を望んでいるか率直に伝えることにした。
約束の時間よりもかなり早く到着してしまっていたが、予定を切り上げてもらうことができ、それほど待たずにセカンドオピニオンを受けることができた。
F先生は手馴れた様子で資料に目を通し、すぐに「うん、これは治るよ」と意外なほどあっけなく、一番欲しかった言葉を口にしてくれた。
それから今までの経緯や今どのような状態かを聞かれ、私がここでの治療を早急にして欲しいと強く希望していることを聞くと、驚くほど迅速に行動してくれた。
本来セカンドオピニオンはあくまでも現在行われている治療に関して、その他の可能性を探るために相談するためのもので、原則としてその場で判断して転院できるものではない。
しかし、こちらの希望を聞いたF先生はすぐにその場で『がんセンター』での担当医師に電話して「こちらで治療することに決まったから」とサラっと言ったのである。
正直驚いたが、それはその『がんセンター』が長年の古巣であり、副院長をも勤めてきた病院で、医師もほとんど知った顔だったからできることだったのだろう。
妻は今現在、抗がん剤治療の2クール目をしている最中であり、投与から副作用が終わるのを含め、退院できる最短日が7月21日である。
その日に合わせて、こちらでの検査と治療、入院のスケジュールを組んでもらえたのである。
通常なら一ヶ月ほどかかる待ち時間を、まさに最短で、全てこちらの希望通りにしてもらえることになった。
あまりにもあっけなく、こちらの希望通りに進むので、不安があった分少し拍子抜けしたが、それでもやはり嬉しさは隠しきれなかった。
もしもの為にと、他の治療方法や施設を調べていたことが無駄になったが、そうなって本当に良かった。
まだ本格的な治療が始まったわけではなく、あくまでスタートラインに立っただけに過ぎないが、これで一つ肩の荷が降りた気がした。
そして何とか各方面の担当者と連絡を交わし、無事スケジュールを確保できたようで、本格的なこれからの予定を聞いた。
その他にも、F先生は『がんセンター』でのことが気になるようで、いろいろと聞かれた。
その中で「あっちの放射線科医にどんな判断されたの?」と聞かれたので、「初見が珍しいので治療しても治るかどうかわからない」と言われたと告げると、ひどくあきれて「情けない」と繰り返していたのが印象的だった。
その後も、「大丈夫これは治るから」「ここに来る人はもっと酷い症状が多いよ」「陽子線は本当によく効くから」「動注もできるし心配ない」など、嬉しくも安心できる言葉をもらった。
話し込んでいるうちに、いつのまにか2時間ちかくも経過していた。
セカンドオピニオンの枠である30分を大きくオーバーしてしまった。
多忙である先生方には申し訳なかったが、とても意味のある充実した話しができたことに大きな満足感があった。
もちろん、一番理想としていた治療が、最短で開始できることが決まったのが最大の収穫だった。
やっと先が見える一歩を踏み出すことができた。この一歩は非常に大きく、そして重要な意味をもつだろう。
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